上海企業の海外進出について

上海企業の海外進出の背景

中国政府は、最近、中国企業の対外投資を奨励する「走出去(海外進出)」政策を進めている。

かつては、外貨の海外流出への懸念から企業の海外投資を中央政府が厳しく管理していたが、WTO加盟などに伴い有力企業の外国投資や経営の国際化を奨励している。また、中国政府は投資金額300万ドル以下の審査・批准権限も地方政府に委譲した。

この流れを受け、上海市政府でも上海企業の対外投資を積極的に推進している。

まず、2004年3月に「走出去」戦略促進会議を開催し、2007年までの4年間、対外直接投資を毎年50%拡大することを目標として定めたほか、2005年3月には、「上海市奨励企業『走出去』戦略3年行動方案(2005~07年)」を公布し、国別の推薦投資分野を公表した。

これによると、推薦業種として「エネルギー・資源」、「自動車」、「医薬業」、「機電産業」、「軽工業、日用品」、「ハイテク・イノベーション分野」の6つの業種が挙げられているが、そのうち「自動車」と「機械・電気産業」については、日本、ドイツ、韓国などへの積極的な進出を推薦している。(表参照)

推薦業種 推薦投資先 推薦理由
エネルギー・資源 ブラジルなど中南米諸国、タイ・ベトナムなど東南アジア諸国、中央アジア、中東の石油ガス生産国、ソロモン・クック諸島など太平洋諸国 資源不足は上海市経済発展のネックであり、エネルギー開発に関する投資を拡大する必要がある。
自動車 日本、韓国 アジア地域は自動車産業関連再投資の適地であり、韓国企業の不振は上海市の自動車産業発展にとって重要なチャンスである。
医薬業 アジア、アフリカの発展途上国 上海企業は国内市場での優位性がなくなり、海外進出によって価格競争を避けるとともに国内の過剰生産を緩和できる。
機械・電気産業 ドイツなど西欧先進国、日本、韓国 他業種に比べ、上海企業は管理ノウハウと資金力に優れ、国外市場の状況も熟知している。
軽工業、日用品 ロシア、ハンガリー、ルーマニアなど東ヨーロッパ EUの輸入規制と為替リスクの回避、輸送料と倉庫コスト削減の面で優位性がある。
ハイテク・イノベーション分野 カナダ、米国 先端技術の状況を俯瞰し、西側諸国の市場におけるデザイン、性能を把握し、現地での販売力を定める。

(出所「通商弘報」2005年3月31日号)

上海企業の対外投資の状況

上海市対外経済貿易委員会の発表によれば、2004年の上海企業の対外直接投資件数は91件(前年比12.3%増)、投資金額は3億2,824万ドル(前年比90.5%増)となっており、上海企業の海外進出が増加している。

しかしながら、今のところ、中国企業の対日直接投資については、件数、金額ともに小規模にとどまっている。

中国商務部が発表した「2003年中国対外投資統計報告」によれば、中国の対日直接投資は2003年現在の累計投資実質額で8900万ドルとなっている。これは、国別の順位では15位であるものの、割合としては全体の0.2%に過ぎない。

また、日本の財務省の統計「国別・地域別対内投資実績」によれば、平成15年度に中国から日本に受け入れた投資件数はわずか20件、投資金額も300万ドルにとどまり、これは、日本への対外直接投資の全世界合計に占める割合の0.1%にも満たない。

上海企業の日本進出の事例

(1) 豊富な資金を持つ大型国有企業が海外企業を買収し、技術、人材と管理ノウハウを獲得するケース

中国の大手総合電機メーカー上海電気集団総公司(以下、「上海電気」)は、海外企業の中小企業の優れた技術力や開発力を獲得するため、日本、ドイツで経営不振に陥っている中小企業に狙いを定め企業買収を行っている。

2002年には、日本で民事再生法の適用を受け経営再建中だったアキヤマ印刷機製造(以下、「アキヤマ」)(東京都葛飾区)を買収し、2年後の2004年には、同じく民事再生法の適用を受けていた池貝(茨城県玉造町)を買収した。

上海電気の子会社である上海光華印刷は、アキヤマの技術を導入し中国国内初の単面全色印刷機の開発に成功し先進国に比べ18年遅れているといわれてきた技術開発力のキャッチアップに成功したほか、アキヤマの国際的な販売力とブランドを活かし、2003年の売上高は、前年比30%超と急成長した。また、買収されたアキヤマも、2002年度、2003年度とも黒字を計上し、企業の再建もうまく進んでいるようである。

(2)日本にすでに取引先をもつ企業が業務拡充のため日本に拠点を作るケース

ソフトウェア開発ベンチャー企業上海鼎正科技発展公司は、2004年9月に系列の上大鼎正軟件有限公司との共同出資で名古屋市内に日本法人「上大鼎正」を設立した。

両社はともにデンソー(愛知県刈谷市)向けのカーナビゲーションのソフト開発を手がける実績をもち、取引先のほか自動車産業が集積する中部地方に拠点を設立することで、さらなるサービスの強化、業務拡充、新規顧客の開拓を図る狙いだ。

ジェトロ上海センターによれば、2003年以降にセンターを通じて誘致した8社の中国企業のうち6社がソフトウェア開発会社で、いずれも日本企業からソフトウェアのアウトソーシング開発を受注している企業。すでに日本に取引先を有している企業の場合、日本語や日本のビジネス習慣にも熟知しており、既存の取引先との関係を維持しながら、新規顧客を開拓できるため、日本に進出しても成功しやすいそうだ。

まとめ

中国企業による日本進出はまだ始まったばかりであり、金額、件数ともに現状では小規模にとどまっているが、上記事例のとおりすでに実際にいくつかの上海企業が日本への直接投資を行っており、今後も引き続き中国企業が日本に進出してくると思われる。今回、上海の企業がどのような目的をもって日本に進出しようとしているのかを紹介することにより、今後、福島県が中国企業を誘致する際の参考となれば幸いである。

参考文献

  • 東方早報 2005年4月11日付け「上海企業『走出去』三年行動方案『熱』啓動」
  • 日本貿易振興機構「通商弘報」2005年3月31日号「上海市、対外投資の推薦分野を公表」
  • 日本貿易振興機構「通商弘報」2004年3月10日号「上海市、4年続けて対外投資50%増目指す」
  • 日本貿易振興機構「中国経済」2005年4月号 揚子江便り「日本での成功を目指す上海企業」
  • 上海市対外経済貿易委員会ホームページ 外経統計数据 「外経業務情況」
  • 中国商務部ホームページ 「2003年中国対外投資統計報告」